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国軍がクーデターを起こしたミャンマーで、事実上の政府トップであるアウン・サン・スー・チー国家顧問の拘束が続いている。
軍に対する抗議デモは連日各地で行われ、国民の9割が熱心な仏教徒の同国で世論形成に大きな影響力を持つ僧侶も行進に加わった。医師や銀行員、公務員らが職場を放棄する不服従運動も拡大している。
国民の大半がクーデターを支持していないことは明らかだ。軍はスー・チー氏や他の拘束者を解放し、権力を民主体制に戻さなければならない。
スー・チー氏には無線機を違法に輸入し使用した疑いがあるとされる。勾留期限切れを前に別の容疑でも訴追されたという。
あくまで法に則(のっと)った拘束だと言いたいのだろうが、これで国民や国際社会が納得すると考えているのなら滑稽である。「でっち上げ」(ジョンソン英首相)と一蹴されて仕方あるまい。
軍報道官は「抗議活動が暴力を引き起こしている」と批判した。最大都市ヤンゴンなどで装甲車が展開している。過去にはデモ隊への発砲という惨事もあった。軍は愚行を繰り返してはならない。
1960年代以降、軍は半世紀にわたり、ミャンマーを支配した。今も抗議は力によって押さえ込めると信じているのだろう。
だが、街頭で抗議する人々は10年近い文民統治を経験した。民政移管で欧米などの制裁が解かれ、国が開かれたことも知っている。認識を改めてもらいたい。
拘束の長期化は許されない。国際社会は軍の力の行使を阻止し、民主体制への復帰に向け、全力を挙げなければならない。
不可解なのは中国やロシアがこの出来事を「クーデター」と呼ばないことだ。国軍は「クーデターではない」と言い張っている。
中露がメンバーの国連安全保障理事会は報道声明を出しただけで、そこには「クーデター」も「非難」もなく、人権理事会の決議にも盛り込まれなかった。
中国と国境を接し、インド洋への出口にあたるミャンマーは、膨張の圧力を肌で知っているはずだ。近年、中国と距離を取ろうと試みたのは、過度の依存の危うさを警戒したからではないのか。
それでも、中国の擁護を期待するなら、これは国民に対する許しがたい裏切りである。
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2021年2月18日付産経新聞【主張】を転載しています